この映画は何度観ても発見があり、好きなシーンを挙げたらきりがないのですが、
今回はあえて“ベッドシーン”を取り上げたいと思います。
「え、そこ?」と思われるかもしれません。けれど、このシーンには物語全体を象徴するような
人間の心の繊細な動きが凝縮されています。
“ベッドシーン”
恐怖の中で少しずつ心を通わせていくサラとカイル。カイルは最初、ダイナマイトの作り方を丁寧に教え、少しの衝撃も与えないように慎重に扱っていた。
でも、恋心を打ち明けた後は、感情を抑えきれず乱暴に袋へ詰め込んでしまう。
この映画は何度観ても発見があり、好きなシーンを挙げたらきりがないのですが、今回はあえて“ベッドシーン”を取り上げたいと思います。
「え、そこ?」と思われるかもしれません。けれど、このシーンには物語全体を象徴するような人間の心の繊細な動きが凝縮されています。
命を狙われ、常に緊張と恐怖の中を逃げ続けてきたサラとカイル。ようやく見つけたモーテルの一室で、彼らはつかの間の休息を取ります。カイルは手製のダイナマイトを慎重に作りながら、サラに作り方を教えます。少しの衝撃も与えないよう、静かに、丁寧に扱う姿に彼の冷静さとプロの戦士としての緊張感がにじむ。
しかし、サラとの会話を重ねるうちに、二人の距離が少しずつ近づいていく。カイルには恋人がいたことがなく、恋をする余裕などない毎日を生き延びるのに必死な時代から来たことを知り、サラはその告白に戸惑いながらも、どこか母性のような感情で彼を受け止めたくなったのかもしれない。
そしてカイルは、未来から彼女を守るために来たこと、ずっと彼女を想っていたことを告げる。その瞬間、彼の中で張りつめていた理性の糸が切れるように、感情があふれ出していく。取り乱した感情を抑え、サラから離れ、戦いに備えてダイナマイトを袋に詰めるカイルの手つきが、先ほどまでとはまるで違う。乱暴で、荒く、抑えきれない感情がそのまま動作に出ている。
今にも爆発してしまいそうなその緊張感は、まるで二人の揺れる理性と感情そのもの。そして寄り添う二人の姿が、危うくも美しい。
この作品の中には、人間の強さや愛、そして破滅的な運命に抗う意志が描かれている。けれどこの一瞬だけは、戦いも未来も忘れ、“人として誰かを想う”という純粋な感情が画面いっぱいに広がる。カイルが戦いから気持ちを唯一解放できた瞬間だったかもしれません。そのコントラストがあまりにも見事で、何度観ても心を掴まれてしまいます。
出典:『ターミネーター』(1984年)
© Orion Pictures / Directed by James Cameron